はじめに
「なんか変だな…」
「いつもと様子が違う気がする…」
あなたが愛猫のほんのわずかな変化に気付いたけど、それが本当に病気なのか判断できずに不安になったことってありませんか?
元気がない、食べない、食いつきがわるい、くしゃみをしている、吐いたり下痢している。これらの症状があっても、一時的なものですぐに治ってくれるのか、それとも深刻な病気の初期段階なのかはわからないですよね?
猫は自分の具合が悪くても本能的にそれを隠そうとする習性があるため、悪化する前に気づくのが難しいという困った問題があります。中には、目立つ症状が出たときにはすでに手遅れだったなんてこともあります(実はわたしの飼っていた猫も、気づいたときには大きな腫瘍の塊がお腹の中にあって絶望した経験があります)。どんな症状なら動物病院に連れて行くべきか判断に迷うこともあるでしょう。
この記事では、救急病院で長年勤務している臨床獣医師のわたしが、猫の体調変化のサインについて詳しく解説します。
そして、
どういう症状が大事なポイントなのか、どのタイミングで動物病院に連れて行くべきかについてもアドバイスします。
猫の体調変化で不安になったあなたに、この記事が役に立つとウレシイです。

深刻な病気のサインになりうる症状
猫の体調不良は小さな変化から現れます。
こんな症状が現れたら注意が必要です。
食欲低下
元気がない
呼吸が速かったり、頑張って呼吸している
嘔吐や下痢をしている
ふるえている
出血が止まらない
これら初期症状を見逃さないことが大切です。
止まらないけいれんや止まらない出血など、命に関わる危険もあります。あなたは普段の猫の様子をよく観察し、異変に気づいたら早期に獣医師に相談しましょう。
以下に緊急事態リストをまとめておきます。
症状 | 概要 | チェックポイント |
---|---|---|
食欲低下 | 様々な病気の初期症状。原因は多岐にわたる | 食欲の変化とともに、同時に別の異変も生じていないか? |
元気がない | 猫は我慢強いため、体調不良を隠すことが多い | 2日経っても体調が変わらない、むしろ悪化してきていたら要注意 |
呼吸の異常 | 呼吸回数上昇や呼吸様式の異常。咳の有無 | 呼吸音に異常が出ているか?顔つきはどうか?歯茎や舌の色はどうか?開口呼吸は非常に危険な状態! |
嘔吐・下痢 | 病的な嘔吐かどうか判断が難しいが、持続する場合は異常の可能性大。下痢の原因も多岐にわたる | 嘔吐や嘔吐が治まらず、食欲不振や体調悪化も起こればすぐに病院へ! |
出血 | 止血が困難なことは多い。レアパターンでは腫瘍や免疫疾患が原因の場合もあり | お腹の中での出血であれば、手術を検討するケースもあり |
けいれん・意識障害 | 中毒、てんかん、脳疾患、重度の腎臓病や肝疾患が原因で起こり得る | 基本的にはすぐに病院へ! |
食欲不振、食べない
猫がいつもより食欲が落ちたり食べなくなったりすることは、様々な病気の初期症状の1つです。ですが、これといった明確な原因だけが食欲不振を引き起こすのではなく、極端なはなし、何が原因であっても食欲不振を招く可能性があります。
口の中が赤く腫れて痛い
嘔吐して気持ち悪くて食べたくない
何かしらのストレスがある
腎臓病が悪化してきた
からだのどこかしらが痛い
一方で、過度の食欲亢進や飲水量の増加も病気の徴候になり得ます。
大事なポイントとしては、
食欲の変化とともに、同時に別の異変も生じていないか?
ということです。
猫の食欲の変化とともに元気もない、動かない、吐いている、下痢をしている、などの症状があれば獣医師に相談してください。
元気がない、ぐったりしている
個人的には、「元気がない」と「ぐったりしている」の間には大きな差があるという認識です。しかしながら、
猫は我慢強い動物なので、体力や気力のある猫は調子の悪さを隠せてしまい、内部的には「ぐったり」であっても表面的に「元気がない」程度に見えてしまう
これが落とし穴だと感じています。
実際の診察においても、身体検査上は大きな異変が無いように見受けられても各種検査結果は「トンデモナイ」結果だった!なんてことに遭遇します。もちろんどの猫も調子の悪さを隠せるわけではないので、体調の異変に気づいたら様子を見すぎないことを強く推奨します。
つまり、まだぐったりはしていないから大丈夫というわけではありません。
2日経っても体調が変わらない、むしろ悪化してきているという状況であれば、早急に獣医師に相談してください。
具体的な原因として、
猫風邪や何かしらの感染症(細菌、ウイルス、細菌とウイルスの両方)
貧血
ストレス
関節炎で痛い
胃腸炎で痛い/辛い
など、原因は何でもありです。
あまり動かず、じっとしているばかりでは水分と栄養の摂取が不足するため、症状が更に悪化しかねません。原因究明と対症療法を行う必要があります。
呼吸器系の異常
猫の呼吸器疾患の症状としては、
咳
呼吸回数の上昇
呼吸様式の異常(お腹が大きく動いている;腹式呼吸)
開口呼吸(口を開けて荒い呼吸)
などの症状が現れます。
呼吸器疾患は命に直結するケースも多いため、当然ながら早期発見と適切な治療が不可欠です。
わたしが注意するポイントは、
異常な音が出ていないか
呼吸は浅く早いのか
深く頑張って呼吸しているのか
顔つきはどうか
歯茎や舌の色はどうか
こんなところです。
もし気になるポイントがあれば、
できる限り動画を撮ってください。顔のアップと全身の様子がわかるアングルで。

百聞は一見にしかずです。
経験豊富な獣医師であれば、呼吸のしかたや呼吸音で呼吸の異常が起きている原因が鼻先なのか、のどなのか、気管や気管支なのか、肺なのか、おおよそ想定することが可能です。視診、聴診、触診、レントゲン検査で場所の特定を行います。場合によっては心臓が原因のこともあり、その際は超音波検査が必要となります。
猫カゼで、くしゃみや咳が数日続く場合、鼻水や目やにが多量にある場合などで、症状が改善しないようであれば注意が必要です。鼻水や目やにが黄色や緑色であれば感染症を疑います。重度の呼吸障害があれば酸素不足により意識障害にもつながりかねません。これらの症状に加え、発熱や食欲不振なども伴うようであれば、かかりつけの獣医師に急いで診てもらってください。
猫カゼ症状(くしゃみ、咳、鼻水、目やに、涙)+ 発熱や元気食欲不振 もすぐに病院へ!
消化器系の異常
猫の嘔吐は、もしかしたら「元気がない」、「食欲不振」よりも多く起こるイベントかもしれません。
だからといって安心して良いわけではありません。その嘔吐が病的なものか、猫にとって生理的な範疇なものかがわからないからです。
どんな状況で吐いてしまったか。これはとても大事です。
何も思い当たる原因がなく、1-2回吐いてスッキリしているのか、何度も吐いてしまっているのか。
また、何か食べてしまって中毒の疑いがあるのか、物理的に何かが詰まっている可能性があるのか。
頻度に関しては、いままでほとんど吐いたことがなかった子が、ここ連日何度も吐いているのであれば何かしらの異常があるかもしれませんね。
一般的には、何度も吐くようであれば病気の兆候とみなします。血液検査で嘔吐の原因がわかる場合(腎臓病や肝疾患など)もあれば、レントゲンや超音波検査などの画像検査でわかる場合も多いです。実は寄生虫が原因で吐いていたなんてこともあり、駆虫薬投与が正解だったケース、食事が原因で食事変更が正解だったというケースもあります。
また、下痢も嘔吐と同様に考えていきます。
軟便 / 泥状 / 水様性
血混じり
粘液が付いている
色が黒い
異臭がする
糞便検査で寄生虫の卵が検出されるかどうか、どの程度未消化なのかを評価します。
血液検査や画像検査で胃腸炎や膵炎が原因なのかの判断をします。
フード変更後に下痢をしたらアレルギーを疑うかもしれません。
検討すべきポイントは山ほどあります。
非科学的ではありますが、現実問題としてストレスは原因の一端を担っていると感じます。色々な検査を行ったが大きな問題が見つからない場合、除外診断として「ストレス」を原因として仮診断することはあります。
嘔吐も下痢も、続くとからだは脱水し、電解質のバランスが崩れ命に関わる危険もあります。
嘔吐や下痢が48時間以上続く場合は注意が必要で、これらに加え食欲不振や元気がない様子も同時に見られれば、すぐに獣医師に相談しましょう。
その他
猫にみられるその他の異常な症状として、発熱、けいれん発作、出血などがあげられます。
発熱は多くの病気の初期症状のひとつとなり、熱が下がらない場合は重篤な感染症やウイルス性疾患の可能性があります。
けいれん発作や意識障害は、中毒やてんかん、脳疾患、重度の腎臓病や肝臓疾患などが原因で起こります。
これら症状が見られた場合は、すぐに獣医病院に連れて行ってください。
また、こちらの記事も参考にしてみてください。
吐血や鼻出血や血便、血尿などの出血症状は、腫瘍や免疫疾患が原因となる場合があります。いつからどの程度出血が持続しているかなどを獣医師に正確に伝え、原因の特定と止血処置を行うことが重要です。
止血処置の大原則は圧迫です。故に皮膚以外からの出血をコントロールすることは、とても困難なのです。結果的に出血が治まってくれた場合は結果オーライであり、もしお腹の中で出血が止まらない状況であれば、試験開腹(つまり手術)を行わないと出血多量で命への影響も出てきてしまいます。
いずれの状況でも、
様子見過ぎが取り返しのつかないことになり得る
ので、要注意です。
病気を未然に防ぐためのポイント
猫の病気を未然に防ぐには、
適切な飼育環境の整備
定期健診
普段からの観察
が欠かせません。
適度に遊ばせて運動量を維持し、なるべくストレスの少ない快適な環境づくり。適切な食事と水の提供。
トイレの環境も大事です。ウンチが大量に残っていたり、おしっこの臭いがきついトイレは、衛生面的にも心理的にも良いことはありません。
定期的な検査で病気の早期発見・早期治療を心がけ、予防接種も怠りなく受けさせることが大切になってきます。
環境づくり(ストレス対策など)
猫は人間以上にストレスを感じやすい動物です。過度なストレスは免疫力の低下を招き、様々な病気の原因にもなります。
ストレス源となりがちなのが、
狭い居住空間
急な環境の変化
多頭飼育でのトラブル
人間とのかかわり方の問題
などです。
なるべくストレスフリーな生活ができるよう、広めの空間を確保し、猫の隠れ家やベッド、遊び場所も用意しましょう。
多頭飼育の場合は、必要に応じて別々の空間を提供することも検討しましょう。
人間側も、猫の気持ちを尊重した上で、優しく接することが不可欠です。
食事管理
猫は肉食動物なのでタンパク質を中心とした食事が理想的です。
ドライフードにすべきかウェットフードにすべきかよく相談を受けますが、結論としてはどちらでも構いません。
ウェットフードのメリットは、同時に水分も少量ではあるが摂取できるところ。強いてデメリットをあげるとすれば、やや割高なところかと。
ウェットは食べないけどドライなら食べる子もいますので、どちらが好きなのかを把握しておくと良いでしょう。
ウェットの方がドライよりも好きだけどドライも食べてくれる猫であれば、個人的にはドライをメインにすることを推奨します。
なぜかと言うと、ドライを食べなくなってしまった時に、ウェットフードなら食べてくれる期待度が残っているから。
食欲不振の際に奥の手としてウェットフードやおやつなどの選択肢が残っていると安心!という考え方。
この考え方が絶対ではありませんが、食べてくれるかも?という期待感のある選択肢が残っている安心感は計り知れません。
当然のことながら、与える量や回数も重要です。
年齢や体型に合わせた適正な分量を把握する必要があります。
肥満の先に糖尿病が待ってますからね。
十分な運動と睡眠をとらせ、消化を助けましょう。こうした食事管理を行えば、猫の健康的な体作りにもつながるでしょう。
定期健診の重要性
定期検診の重要性を説く際に、病気の早期発見・早期治療につながるから、という理由が一般的かと思います。たしかにその通りです。
ただ、救急医としての個人的な考え方は、
病気になってしまい検査をしたところ異常な数値、異常な画像所見が見つかった際、定期検診をしておくと、その異常値や異常所見がいつからどの程度の変化であるかが判るから。
という理由になります。
つまり、数値の絶対値として高い/低いという結果が、もともと高め/低めで推移していたのかどうか、また短期間でグッと上がって/下がってしまったかどうかを知れることは、病気や病態の評価をする上で非常に重要であり、予後判定に大事なポイントとなってくるからです。
生後半年から2歳くらいまでに1-2回
以降10歳くらいまでは数年に1回
10歳以降は毎年
15歳以降は年に複数回
上記の頻度で血液検査をしておけると、血液検査上の異常には早期に気付けるのではないでしょうか?
血液検査実施の何回かに1回は、同時にレントゲン検査や超音波検査を行い、画像データを残しておけると良いと思います。
もちろん、体重や体温の測定、毛づやや口の中の評価もとても大事な項目となります。
さいごに
当たり前の事にはなりますが、猫の体調変化に早く気づき、適切に対処することが何よりも大切になります。
食欲不振や元気消失、呼吸器や消化器の異常、発熱や出血など、わずかな病気のサインを見逃さず、なるべく早く獣医師に相談しましょう。
一方で、快適な環境づくりと食事管理、定期健診で病気の予防にも努めることが重要です。
救急医として思うことは、『様子を見すぎても何も良いことは無い』
もちろん、動物病院は人間のような国民皆保険制度はありません。しっかり検査をすれば、どこの病院でも数万円程度の費用がかかってくるでしょう。
しかし、費用の出し惜しみが結果として動物や飼い主さん自身の不利益につながってしまったケースを何度も目の当たりにしてきました。
すべての方に無理してください、と言うつもりはありません。みなさんにはみなさんのご事情がありますので。
ただ、
最終的に後悔してもらいたくない、と言うのが偽らざる本音です。