「ヨダレが大量に出てグッタリしてるんです!近くに吐いた痕もあるんです!」
救急病院の電話が鳴り、飼い主さんの焦りと心配が伝わってきます。
「どうやら洗剤を舐めてしまったようで…」
「おじいちゃんが飲んでる薬を誤って飲み込んでしまったかもしれないんです...
薬の袋がビリビリになって落ちてました」
こんにちは。動物救急医のSohey(ソーヘイ)です。
上記のような電話は、食べ物の誤食ほど多くはないですが、時折かかってきます。
しかしながら、すでに何度も吐いていたり、ヨダレが大量に出ていることも多く、
悲壮感を伴った連絡が多い印象です。
実は私たちの生活空間には、愛犬にとって危険な物質が思いのほか多く潜んでいます。
日常の一瞬の隙が、取り返しのつかない事態に繋がることも。
今回は、家庭内に潜む特に注意すべき6種の危険物質についてお伝えします。
この知識が、あなたの大切な愛犬の命を守る鍵となることをお祈りします。
▼犬の中毒に関する連載記事
第2回:タマネギ、ニンニク、ブドウの影響
第3回:家庭内の意外な危険物質(本記事)
洗剤・漂白剤

危険性
家庭用洗剤や漂白剤には、界面活性剤や酸・アルカリ性の成分が含まれており、犬が誤って摂取すると口腔内、食道、胃腸の粘膜への化学熱傷のリスクがあります。
強アルカリ性の製品(排水管洗浄剤など)は非常に危険となります。
代表的なもの
- 食器用洗剤
- 洗濯用洗剤(特に濃縮タイプや液体パック)
- 漂白剤
- トイレ用洗剤
- 風呂用洗剤
芳香剤の匂いにつられて舐めちゃった!のケースは意外と起こりますね。
症状
比較的早期の症状
- 口や唇の周りの発赤や腫れ
- ヨダレ
- 嘔吐
- 呼吸状態悪化
時間差で発症
- 下痢
- 食欲不振
- 呼吸困難
- 意識障害
医薬品

危険性
動物病院では人間用の医薬品と動物用医薬品を扱います。
人間も犬や猫も、薬の代謝についての考え方は概ね同じですが、人間用医薬品の一部では、犬の体には人間とは異なる作用をもたらすことがあります。
また、注意すべきは体重の違いによる相対的な過剰摂取です。
例えば、50kgの人間と5kgの犬では、単純に濃度は10倍も異なります。
さらには代謝機能の違いから、思わぬ副作用や効果が強く出ることも少なくありません。
症状が重篤になりやすい医薬品
- 解熱消炎鎮痛剤(イブプロフェン、アセトアミノフェン、アスピリンなど非ステロイド剤)
- 睡眠薬・精神安定剤(睡眠導入剤やうつ病など向精神薬)
- 血圧降下剤
- 抗血栓薬(脳梗塞や心筋梗塞の方の薬) など
基本的には全ての医薬品は、何かしらの副反応が起こる可能性があるとの認識が重要です!
症状
薬剤によって症状は異なりますが、主なものとして:
- 嘔吐・下痢
- 元気食欲低下
- 過度の眠気や興奮
- ふらつき
- けいれん
- 呼吸状態悪化
- 意識障害
以下は、症状が重篤になりやすい薬剤についてのまとめ。
分類 | 主な薬剤例 | 主な副作用 |
---|---|---|
解熱消炎鎮痛剤 (NSAIDs;非ステロイド) | イブプロフェン、アセトアミノフェン、アスピリンなど | ・胃腸障害(嘔吐、下痢、胃潰瘍、消化管出血) ・腎障害(急性腎不全) ・肝障害(特にアセトアミノフェン) ・貧血・メトヘモグロビン血症(アセトアミノフェン) ・痙攣や昏睡(大量摂取時) |
睡眠薬・精神安定剤 | 睡眠導入剤、抗不安薬、抗うつ薬など | ・沈うつ、ふらつき ・呼吸抑制 ・昏睡 ・興奮、震え ・血圧低下や心拍数低下 ・嘔吐や下痢 |
血圧降下剤 | カルシウム拮抗薬、ACE阻害薬、ARBなど | ・血圧低下 ・ふらつき、虚脱 ・心拍数低下 ・ショック症状 ・嘔吐や下痢 |
抗血栓薬 | ワルファリン、アスピリン、クロピドグレルなど | ・出血傾向(皮下出血、血尿、消化管出血) ・血便、吐血 ・貧血 ・元気消失、ふらつき ・重度出血によるショック |
以下は、人間とは異なる症状、重篤化する可能性のある副作用についてのまとめ。
分類 | 主な薬剤例 | 人間と異なる症状・重篤化する副作用 |
---|---|---|
解熱消炎鎮痛剤(NSAIDs)全般 ※湿布の誤食も含む | イブプロフェンなど | ・胃潰瘍、消化管潰瘍・穿孔 ・急性腎不全リスクが高い |
アセトアミノフェン | カロナール等 | ・メトヘモグロビン血症(酸素運搬障害) ・肝不全による黄疸や虚脱 |
抗うつ薬(SSRI・SNRI・三環系) | パキシル、サインバルタ、トリプタノールなど | ・興奮、震え、痙攣 ・セロトニン症候群(過剰興奮、発熱、振戦)発症リスク大 |
α2作動薬(血圧・前立腺薬) | フェントラミン、プラゾシンなど | ・急激な血圧低下、虚脱、ショック症状 |
カルシウム拮抗薬(降圧薬) | アムロジピンなど | ・重度の血圧低下、心拍数低下、虚脱、心停止リスク |
β遮断薬(降圧・心疾患薬) | アテノロール、プロプラノロールなど | ・心拍数低下、血圧低下など心不全症状 ・特にプロプラノロールは毒性強い |
メトホルミン(糖尿病薬) | グリコランなど | ・重度の血糖値低下、嘔吐、虚脱 |
ヒスタミンH1ブロッカー(第1世代抗アレルギー薬) | ポララミン、レスタミンなど | ・沈うつ、昏睡、ふらつき ・一部薬剤は逆に興奮・痙攣することも |
経皮薬(貼付剤) | フェンタニルパッチなど | ・犬は経皮吸収が非常に速く致死量に達しやすい(特にオピオイド系) |
ビタミンD製剤(サプリ含む) | アルファカルシドール等 | ・ビタミンD中毒(高カルシウム血症、腎不全) |
解熱消炎鎮痛剤(NSAIDs;非ステロイド)においては、錠剤の誤食ではなく湿布の誤食も多いので注意してください!
タバコ

危険性
犬が誤ってタバコの吸い殻や電子タバコのリキッドを摂取すると、強力な神経毒であるニコチンの中毒を起こす可能性があります。
特に、電子タバコのリキッドは高濃度のニコチンを含むため、少量でも危険となります。
特に注意すべきもの
- 吸う前のタバコ
- タバコの吸い殻
- 電子タバコのリキッド
- ニコチンガム・パッチ
- (紙タバコ、電子タバコのフィルター部分)
症状
- ヨダレ
- 嘔吐・下痢
- 瞳孔散大(黒目が大きくなる)
- 心拍数上昇
- 呼吸状態悪化
- けいれん
- 昏睡状態
- (フィルター部分等による腸閉塞のリスク)
タバコ1本に含まれるニコチン量でも、小型犬では致命的な中毒を引き起こす可能性があります。
よって、絶対に届かない場所に保管することが重要です。
もちろんマッチやライターにも気をつけてくださいね!
殺虫剤・防虫剤

危険性
殺虫剤や防虫剤の多くは、昆虫の神経系を攻撃する成分を含んでいます。
これらは犬にも同様の影響を与える可能性があり、特に体重の軽い犬が大量摂取すると神経症状を引き起こすこともあります。
特に注意すべき製品
- 蚊取り線香やマット式蚊取り(ピレスロイド系)
- ゴキブリ用毒餌(ホウ酸団子)
- 園芸用殺虫剤
- アリ駆除剤
- ネズミ駆除剤
症状
- ヨダレ
- 筋肉の震え
- けいれん発作
- 呼吸困難
- 嘔吐・下痢
- 発熱
- 瞳孔散大または縮小
ゴキブリ用のホウ酸団子の誤食は多いので気をつけてください!
観葉植物

危険性
観葉植物の中には、犬にとって有毒なものが少なくありません。
葉や茎、根、土など、どの部分であっても中毒を起こす可能性があります。
しかしながら、ユリ科以外の植物では、何がどの程度危険であるかは正確にはわかっていません!
特に危険な植物
- ユリ科(チューリップ、スズラン、ヒヤシンスなど)
- アロエ
- アザレア
- ポインセチア
- シクラメンなど
症状
- 口や舌の刺激感や腫れ
- ヨダレ
- 嘔吐・下痢
- 食欲不振
- けいれん
- 呼吸状態悪化
- 心拍数の変化
中には、少量を摂取しただけでも重篤な症状を引き起こす植物もあります。
特にユリ科植物は急性腎不全を引き起こす可能性があるので、最大限の注意をしてください!
新しい植物を室内に導入する際は、事前に犬にとって安全かどうか可能な限り確認することをお勧めします。
電池・コイン

危険性
小型電池やコインは、犬が誤って飲み込む危険性の高い物です。
特にボタン電池は、消化管内で電解質と反応して化学熱傷を起こすリスクがあります。
また、電池からの液漏れによる中毒の危険性もあります。
特に注意すべきもの
- ボタン電池
- 単3・単4など飲み込めるサイズの乾電池
- コイン
- 磁石(特に2個以上飲み込んだ場合)など
症状
- 食欲不振
- 嘔吐(吐血)
- 腹痛
- 便秘または下痢
- 呼吸困難(喉に詰まった場合)
電池やコインを飲み込んだ疑いがある場合は、速やかに動物病院を受診してください。
コインや電池であればレントゲン検査で写る可能性は高く、写っている場所に応じて内視鏡や外科手術による摘出を検討します。
誤食時の対応
愛犬が危険物質を誤食したと思われる場合は、以下の手順で対応しましょう。
1. 冷静に状況を把握する
- 何を、どのくらいの量、いつ頃摂取したか
- 現在の犬の様子(症状の有無)
- 誤食した物質の容器や成分表があれば確認
- 必要に応じて写真や動画に状況を収める
- 残骸があればなるべく全て回収
2. すぐに獣医師に相談
- 電話でまず状況を伝え、指示を仰ぐ
- 獣医師の指示なしに無理に吐かせようとしない
- 特に化学物質の場合、吐かせることでかえって状態が悪化することも
3. 獣医師の診察を受ける
- 摂取したと思われる物質の容器や成分表を持参
- できる限り正確な情報を伝える
→なるべく素直にありのまま全てを伝えてください! - 症状が出ていなくても、念のため検査を受けることをお勧め
速やかな対応が愛犬の命を救います。
「様子を見よう」と判断するよりも、獣医師への相談や診察を受けてくださいね!
予防のポイント
家庭内での中毒事故を防ぐために、以下の予防策を実践しましょう。
安全な保管場所の確保
- 洗剤、薬品、医薬品などは高い場所やしっかり閉まる箱やケースへ
- しっかりとフタのできるゴミ箱
- リモコンなど電池を使用する製品は犬の手の届かない場所に
環境整備
- 定期的に床を掃除し、落ちた薬や小物を取り除く
- 観葉植物は犬が届かない場所に置くか、安全な種類を選ぶ
家族全員での認識共有
- 犬にとって危険なものについて、家族全員が理解する
- 子どもにも、犬に与えてはいけないものを教える
- 来客時にも注意を促す
監視と訓練
- 特に子犬の時期は常に目を離さない
- 「ダメ」「待て」などの基本的なコマンドをしっかり教える
- 好奇心旺盛な犬種は特に注意が必要
まとめ
私たちの身の回りには、思いのほか犬にとって危険な物質が数多く存在しています。
これらのリスクをできる限り知り、適切な予防策を講じることが、愛犬の健康と安全を守る上で非常に重要となります。
犬の好奇心と探索本能を理解し、危険を事前に取り除く努力をしましょう。
そして、誤食が起きた(かもしれない)場合は、迷わず獣医師に相談してください。早期対応が、愛犬の命を救う鍵となります。
愛犬との生活をより安全で楽しいものにするために、この記事が少しでもお役に立てば幸いです。
それでは、また次回の記事でお会いしましょう!良い一日を!